第3話:——担当を持ったら、まずサボり方を考えた——

営業物語

そんな日々が、半年ほど続きました。

ある程度の問い合わせには、対応できるようになってきた頃。

(あれ?今日、誰にも質問してないし、顧客に怒られもしていない…?)

そんな日が、少しずつ増えてきました。


そんなぼくを見て、所長が言いました。

「そろそろ担当、持つか」

——ついに来た。

問い合わせの日々の合間に、先輩の営業同行にも行っていました。

外に出る。

車で移動する。

好きなタイミングで休憩できる。
(え、営業ってちょっと自由やん)

正直、少し楽しみになっていました。


ぼくの会社の営業は、いわゆるルート営業。

同じ顧客と長く付き合い、継続して買っていただくスタイルです。

先輩と一緒に担当変更の挨拶回りを終え、
正式に“自分の顧客”を持った翌日。

ぼくが最初にやったこと。
それは——

サボりスポット探しでした。


東京23区を車で営業する人間にとって、
「どこで休めるか」は死活問題です。

なぜなら、

・コンビニに駐車場がない
・あっても狭くて長居しづらい
・路駐すれば即駐禁
・スーパーですら有料パーキング
(どこで休め言うねんこの街は。好きなタイミングでトイレにも行かれへん!)

営業嫌いで、できるだけ訪問したくないぼくは、
とにかく“無料で車を停められる場所”を探しまくりました。

そして完成したのが、

「サボりスポット一覧(エクセル)」
・場所の写真
・住所
・停めやすさ
・滞在しやすさ

…無駄にクオリティの高い資料でした。

(ぼくはほんとに、お給料をもらいながら何をしているのでしょうか)

そんなことをしながらも、
さすがに一切訪問しないわけにはいきません。

もし所長に、
「今度一緒に同行しようか」なんて言われたときに、
顧客と全く関係ができていなかったら終わりです。

それに、なんやかんや根は真面目なので、
ずっとサボり続けるのも気が引けました。

担当を持ったことで、数字もつきます。
(ちょっとはやるしかないか…)

そう思って、訪問を始めました。

ただ、現実は甘くありませんでした。

ルート営業なので、受付で止められることはありません。

でも——
中に入っても、相手にされない。

・挨拶しても目を見てくれない
・話しかけても適当にあしらわれる
・明らかに「邪魔やな」という空気

完全に“よそ者”でした。
(いや、めっちゃ気まずいやんこれ…)

今なら分かります。

こちらから何も価値提供(give)ができていない人間に、
相手が時間を使ってくれるわけがない。

でも当時のぼくには、そんな視点はありませんでした。

電話でも怒られ、
訪問しても無視される。

そんな経験が積み重なっていくうちに、
気づけば、ぼくの中でひとつの感情が大きくなっていました。

「顧客は敵だ」
「敵」に馬鹿にされないように商品を覚える。
「敵」に怒られないように対応する。
 納期もミスらないように必死に管理する。

気づけば、
“戦うための仕事”になっていました。

営業を始めて半年。
少し慣れてきたはずなのに、
気持ちはどんどんしんどくなっていきます。

——このまま、この仕事を続けていけるのか。
そんなことを考え始めた頃でした。

ぼくは初めて、
本気で「もう辞めたい」と思う出来事に出会います。

第4話 営業を辞めたくて仕方なかった日

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