第13話:——営業だけは嫌だった。でも——

営業物語

転職活動の末、
ぼくは、 人材紹介会社への転職を決めました。

勤務地は、 地元・大阪。
栃木を離れることになります。

退職を上司へ伝えたのは、
最終出社日の、 約1ヶ月前でした。

正直、 かなり緊張していました。
でも、 返ってきたのは、
怒りではありませんでした。

「もったいないなぁ…」
そんな言葉でした。

本部長からは、 こんなことも言われました。
「本当にもったいない」
「なんでだよ!って思ったよ」

それが、 なんだかすごく嬉しかった。
必要としてもらえていたんだな、
って思えたからです。

そこから、
少しずつ社内にも話が広がっていきました。

すると、 いろんな人から電話が来ました。
「マジで辞めるの?」
「寂しいな」
「〇〇くんいなくなるのキツいわ」

そんな言葉を、 たくさんもらいました。

昔のぼくだったら、
きっと信じられなかったと思います。

営業だけは絶対嫌だった人間が、
辞めることを、 こんなに惜しんでもらえている。

なんだか、 不思議でした。
お客さんにも、 少しずつ報告していきました。

すると、
ご飯に連れて行ってくれるお客さん。
「ふらふらしてちゃダメよ?」 と、 親みたいなことを言ってくるお客さん。

そして——
栃木には、 結局1年しかいなかったぼくに、
餞別をくれるお客さんまでいました。

正直、 びっくりしました。

だって、
最初は名前すら覚えてもらえてなかったんです。
転勤数日で上司が倒れてしまい、引き継ぎすらなかったのですから。

そんな自分に、 ここまでしてくれる人がいる。
全部、 嬉しかった。

退職までの残りの期間、
お世話になった方たちへ、
全国各地へ電話をかけました。

「ありがとうございました」
その言葉を、 何回言ったか分かりません。

でも、 全然足りない気もしていました。

営業だけは、 絶対嫌だった。
社会人になるということは、
“懲役40年”みたいなものだと思っていました。

でも、 違いました。
働くことは、 苦しいだけじゃなかった。

誰かに頼られること。
必要としてもらえること。
誰かの役に立てること。

それは、 想像していたより、 ずっと楽しかった。
気づけば仕事は、
ぼくにとって“生きがい”みたいなものになっていました。

そして最終出社日・・・。
最後の挨拶を終えて、 会社を出る。
自転車に乗る。

いつもの帰り道。
気づいたら、 少し泣いていました。

なんか、 終わったんやなって。

しんどかったことも。
吐きながら出社したことも。
怒られたことも。
笑ったことも。

全部、 一気に思い出していました。

そしてぼくは、
栃木を後にして、 次の場所へ向かいます。

もっと、 人の感情が動く仕事へ。
もっと、「この人に任せたい」 と思ってもらえる仕事へ。

社内外の方から、
もっと頼られるスキルを追い求めて・・・

営業だけは嫌だった男の、
ファーストキャリア編は、これでおしまい。

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