第12話:——自分が、必要なくなる気がした——

営業物語

営業が1人だった、 地獄みたいな時期から、
半年ちょっとが経った頃でした。

ようやく、 新しい上司が、 所長として栃木営業所に来てくれることになりました。
これで営業は2人体制。

元々3人が適正人数なので、 全然余裕があるわけではありません。

でも——
半年間、 1人で営業所を回していたぼくにとっては、 それだけで、とんでもなく心が軽くなりました。

「あ、これで自分が多少休んでも営業所止まらへん…」
そんな当たり前のことに、 少し感動したのを覚えています。

周りからも、 本当にたくさん声をかけてもらいました。
「よく耐えたよな」
「マジで大変だったでしょ」
「お前すごいよ」

部長からは、 わざわざ頭を下げられました。
「本当にありがとう」
「信頼してたから、任せた」
その言葉は、 すごく嬉しかった。

お客さんからも、 社内の人からも、 頼ってもらえる。
必要としてもらえる。

昔、 営業だけは絶対やりたくないと思っていた自分が、 そんなふうに言ってもらえている。

正直、 かなり満たされていました。
たぶん、 社会人になってから、 一番“仕事が楽しかった時期”だったと思います。

でも——
そんな頃でした。

ChatGPT4.0が、 世の中に出てきたのは。

最初は、 「なんかすごいAIらしい」 くらいでした。
でも、 触ってみて、 衝撃を受けました。

(え、これヤバくない…?)
商品比較。
提案文。
知識整理。
情報収集。

ぼくが今まで、 時間をかけて積み上げてきたことを、 AIが一瞬で出してくる。

もちろん、 当時はまだ完璧ではありません。
でも、 未来が見えてしまったんです。

(これ、どんどん進化するやつや…)
って。

ぼくは、 有形商材の営業をしていました。
商品知識。
比較提案。
相手が求めている以上の情報提供。
それが、 自分の強みだと思っていました。

でも、 AIは、 その“強み”を、 ものすごい速度で飲み込み始めていた。

そのとき、 初めて怖くなりました。
「じゃあ、自分の価値って何なんやろ」
って。

もちろん、 全部がAIに置き換わるとは思いませんでした。
でも、 “知識を持っているだけ” では、 必要とされなくなる未来が、 見えてしまったんです。

そしてぼくは、 気づきました。
自分が一番嬉しかった瞬間って、 なんやったっけって。

売れたとき?
表彰されたとき?
数字を作ったとき?
もちろん、 それも嬉しかった。

でも、 一番心に残っていたのは、 違いました。

「〇〇くんいる?」
「助かったよ」
「頼りにしてる」
そう言ってもらえた瞬間でした。

ぼくは、 “頼られること”が、 好きだったんです。
だから思いました。

もっと、 人の感情が動く仕事をしたい。
もっと、「この人じゃないと」 と思ってもらえる仕事をしたい。

そして、
「誰がやっても同じ」にはなりたくなかった。
そう考えたとき、 ぼくの中で、 人材紹介という仕事が、 一気につながりました。

求職者さん。
法人さん。

どっちにも感情がある。 正解もない。
だからこそ、 「誰がやるか」 が大きく変わる仕事に見えました。

「あ、この仕事やってみたい」
そう思いました。

もちろん、 悩みました。
だって当時のぼくは、 かなり恵まれていたからです。
お客さんにも、 社内にも、 頼ってもらえていた。

仕事も楽しかった。
環境も良かった。

でも、 だからこそ思いました。

“最高のタイミングで辞めたい”
って。

苦しくなってから辞めるんじゃなくて。
必要としてもらえている今、 次へ行きたい。

そう思って、 ぼくは転職活動を始めました。

第13話:営業だけは嫌だった。でも・・・

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