そんなこんなで、
なんとなく仕事を続けながら、気づけば2年が経っていました。
相変わらず、
目の前の売上を追うことだけに必死な毎日。
正直この頃も、
「営業めっちゃ好きです!」とは全く思っていませんでした。
ただ、少しずつ。
自分の周りで起きていることが、
変わってきていました。
社外の方からの電話で、
「困ったときは〇〇さんやね〜」
そんな風に言われることが増えてきました。
問い合わせの電話でも、
いきなり本題に入るんじゃなくて、
「最近どうなん?」みたいな雑談が入る。
(あれ…?前こんなんなかったよな…)
社内でも同じでした。
年の近い先輩から、
「これどうしてたっけ?」と聞かれることが増えたり、
後輩ができて、指導係を任されたり。
気づけば、
“教えてもらう側”から、“頼られる側”に
少しずつ変わっていました。
それと、もうひとつ。
今思えばですが、
自分なりに工夫していたことがありました。
ぼくのいた業界は、いわゆる体育会系。
元気よく挨拶して、
ハキハキ話す営業マンが多い世界でした。
でもぼくは、あえてそこに合わせませんでした。
顧客の事務所に入るときも、
「こんちはッス!」ではなく、
「お邪魔します〜」
くらいの、ちょっと力の抜けた感じ。
最初はただの自分の性格でしたが、
気づけばこれが、他の営業マンとの差になっていました。
「あいつ、なんか雰囲気違うよな。ゆるいよな笑」
そんな風に言われることもありました。
正直、このときは
差別化しようなんて深く考えていたわけではありません。
ただ、
“自分がやりやすい形”でやっていただけでした。
こうやって、少しずつですが
自分なりのやり方が形になってきていました。
それでも正直、
自分が何か成長した実感はありませんでした。
ただ、ある出来事がきっかけで、
少しだけ感覚が変わります。
以前、第5話で出てきた、
お菓子を出してくれていたあの顧客。
その会社が、
競合他社の在庫を、
ぼくの会社の商品に切り替えてくれることになりました。
売上も、一気に伸びました。
(え、あそこってこんなに伸びるんや…)
正直、驚きました。
でも、それ以上に——
ちょっとだけ、嬉しかった。
そして、もうひとつ。
ある日、一本の電話がかかってきます。
相手は、以前よく訪問していた
“商社の先の”でしたお客さん”でした。
「〇〇くん?ちょっと頼みたいんやけどさ」
話を聞くと、
商品の発注の相談でした。
さらに、そのあとに言われた一言。
「どこの商社通すかは、〇〇くんに任せるわ」
「やりやすいところで発注かけといて」
一瞬、意味が分かりませんでした。
(え…?それ、おれが決めていいん…?)
今まで“売る側”だと思っていた自分に、
“選ぶ側の権限”が渡された瞬間でした。
その電話を切ったあと、
なんとも言えない感覚になったのを覚えています。
(あれ…?)
(なんか、ちゃんと仕事してるっぽくないか、おれ)
気まずさから逃げるためにやっていたことが、
気づけば、ちゃんと結果につながっている。
そのとき、初めて思いました。
「あれ、なんか楽しいかも」
ほんの少しですが、
営業に対する見え方が、変わった瞬間でした。
そのときのぼくは、
まだ気づいていませんでした。
営業の面白さは、
「売ること」じゃなかったことを。



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