第5話:——あれ?なんか違う?と思い始めた日——

営業物語

前回の出来事があってからも、
正直、ぼくの中で何かが大きく変わったわけではありませんでした。

相変わらず営業は嫌い。
顧客のことも、どこか“敵”だと思ったまま。

辞めたいなと思いながら、
毎日をなんとなくこなす日々が続いていました。

ただ、少しだけ。
ほんの少しだけ——
前と違うことを考えるようになっていました。

訪問先で気まずい空気になった帰り道。

(なんでさっき、あんな空気になったんやろ…)
(あの人、何が嫌やったんやろ…)

そんなことを考えるようになっていました。

事務所に戻ると、
届いている発注書をあさりながら考えます。

(この商品、最近よく出てるな)
(これネタにしたら、もうちょい話せたんちゃうか?)

次の訪問で話せそうなことを、無理やり探す。
そして訪問が終わるたびに、手帳にメモを残す。

・話した内容
・反応がよかった話
・気まずくなった原因

とにかく、書きまくる。
(いや、急に意識高い系か!)

照れ隠しに心の中でそうツッコミながらも、やめませんでした。

正直そのときは、
「顧客とうまくやりたい」とかじゃなくて、
「これ以上気まずい思いしたくない」
それだけでした。

それと、もうひとつ。
当時よくやっていたことがあります。

それは、商社の“先の顧客”への訪問です。

理由は単純で、
直接取引のある顧客と話すより、
そっちの方が落ち着くからでした。
(なんかこっちの方が普通に話せるな…)

なんでかは分かりませんが、
そっちの方が話しやすかったんです。

今思えば、
商流の川上まで情報を取りにいき、
商流全体をつかみにいくような動きになっていましたが、
当時のぼくにそんな考えは一切ありません。

ただ、“気まずくならない場所”を探していただけでした。

そんな中でも、
すべての顧客が“敵”だったわけではありません。

ある法人の所長さんは、
訪問するたびにこう言ってくれました。

「おー、おめーよく来たな〜。まあまあ、お菓子タイムにしようか!」

お菓子とお茶を出してくれて、
他愛もない話をする時間。

売上が大きいわけでもない顧客でしたが、
ぼくにとっては、数少ない“ほっとできる場所”でした。

(あれ…?)
(顧客って、こんな人もおるんやな…)

それまで“敵”だと思っていた存在が、
少しだけ違って見えた瞬間でした。

そして、ある日。
ふと、こんなことを思いました。

(あれ?)
(前より、怒られること減ってないか?)
(…あれ?なんでや?)

気のせいかもしれません。
たまたまかもしれません。

でも、
前より少しだけ、
会話が続くようになっている気もしました。

正直、このときも営業が好きだったわけではありません。
できればやりたくない仕事のままでした。
でも——

なんとなく、少しだけ。

「思ってたのと違うかも」

そう思ったのを、今でも覚えています。

ほんの小さな違和感でしたが、
この感覚が、あとから大きく変わっていくことになります。

第6話 あれ?なんか楽しいかも?と思った日

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