第4話:——営業を辞めたくて仕方なかった日——

営業物語

そんなこんなしながら、
担当を持って、さらに半年くらい経った頃ある日の話です。
ぼくには、担当顧客の中でも
ひときわ印象に残っている人がいます。

5歳くらい年上で、やり手の営業マン。
ここでは、Nさんと呼びます。

Nさんは、当社の売上も大きく、
比較的ぼくのことを気にかけてくれる存在でした。
(この人は、ちょっと話しやすいな的な。)
そんな風に思っていた数少ない顧客のひとりです。

その日、ぼくは少し浮かれていました。
長期休暇前日であり、仕事が終わったら、実家に帰省する予定だったからです。
(今日乗り切ったら帰れる…!)
そんな気持ちで、朝から少し機嫌もよかったのを覚えています。

事件は、突然起きました。
一本の電話。

相手は、Nさんでした。
でも、いつもと様子が違う。

明らかに、声のトーンが低い。
そして次の瞬間——

「お前、どうなってんだよ!!!」
怒鳴り声でした。

内容は、こうです。
ぼくの会社の事務員さんの受注入力ミスにより、
商品の出荷が遅れてしまった。

その結果、
Nさんの先の顧客に多大な迷惑がかかってしまった。
というものでした。

正直、その瞬間ぼくはこう思いました。
(いや、それおれのせいちゃうやん…)

完全に、他責です。
でも、そんなことを言える空気ではありません。

Nさんの怒りは、想像以上でした。

「お前のとこどうなってんねん!」
「これでどんだけ迷惑かかってると思ってんねん!」

電話越しでも分かるくらい、本気でキレていました。
受話器を持つ手に汗がにじんで、何を言ったか正直あまり覚えていません。

ぼくは、ただただ謝ることしかできませんでした。
「申し訳ございません」
「すぐに確認します」

何を言っても、状況は変わらない。
ただ、怒られ続けるだけ。

電話を切ったあと、
しばらく、何もできませんでした。

頭が真っ白になる、というのはこういうことなんだと思います。

その日の仕事が終わり、
帰省するために家に帰りました。

朝あんなに楽しみにしていたはずなのに、
気分は最悪でした。

そして——
ぼくは、また泣きました。
スーツのまま床に座り込んで、しばらく動けませんでした。

悔しかった・・・。

理不尽だとも思いました。
(なんでおれがこんなに言われなあかんねん)
(ミスしたのおれちゃうやん)
そんなことばかり考えていました。

でも今なら、分かります。
Nさんからすれば、
「誰のミスか」なんて関係ない。
窓口であるぼくが、会社の代表であるぼくが、
すべての責任を負う立場でした。

そして何より、
ぼくはNさんにとって、
“仕事を任せている相手”だったんです。
当時のぼくには、その自覚がありませんでした。

だからこそ、あの怒りを真正面から受け止めることもできなかった・・・。

もうダメか。
営業ってやっぱり最悪で、つまらない。
何のスキルもない人間が、仕方なくやる仕事や。
——本気で、そう思っていました。

あまりにもひどい暴論をこの時は本気で思っていました。

ここからは、辞めたい気持ちがどんどん大きくなっていきました。

相変わらず営業は嫌いなまま。
顧客のことも、どこか“敵”だと思っていました。

ただ毎日を、なんとなくこなすだけ。
——そんな状態が、このあとしばらく続きます。

第5話 あれ?なんか違う?と思い始めた日

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