第7話:——「売れた」より嬉しいことがあった日——

営業物語

あの日のことは、今でもはっきり覚えています。

なぜか分からないけど、 “いつもと違う感覚”があった日でした。

その日、
担当している商社主催の“展示即売会”がありました。

複数の営業所が合同で行うイベントで、
メーカー各社がブースを出し、
その先のお客さんを呼んで、その場で受注を取る。

ぼくは、その中で2つの営業所(顧客)を担当していました。

正直このときも、
めちゃくちゃ自信があったわけではありません。

(ちゃんと売れるんかこれ…)

そんな不安を抱えながら、当日を迎えました。

会場は、朝からバタバタ。
各メーカーが準備をして、
顧客がどんどん入ってくる。

その中で、ふと気づきます。

(あれ…?この人、知ってるな)

以前よく訪問していた、
“商社の先のお客さん”たちでした。

「〇〇くんじゃん!いると思わなかったわ!」

そんな声をかけられる。

そこからでした。

商品を提案すると、

「じゃあこれ、〇〇くんから買うよ」

と、その場で発注をもらえる。

(え…?どんどん売れる…?)

(競合他社が入り込んでいるはずのお客さんに提案した商品、もう決まったんやけど…?)

今まで、必死に営業しても
なかなか振り向いてもらえなかったのに、
顔を知ってもらっているだけで、
こんなにも変わるのかと、驚きました。

先輩たちとも連携しながら、

「次あっち回ろう!」
「あちらのお客さんいけるよ!」

気づいたら、汗だくで会場を走り回っていました。

完全に、“チーム戦”でした。

そして——
その即売会での売上は、
1000万円を超えました。

前年は800万円ほど。

担当していた営業所のひとつでは、
過去最高の売上を更新しました。

でも正直、
数字以上に印象に残っているのは、
別のことでした。

「〇〇くんだから買うよ」

そう言ってくれるお客さんが、
何人もいたことです。
(え、買う理由それなん…?)

その瞬間、
(あぁ、おれ、この人らに覚えてもらえてたんやな)
そう思いました。

そして、もうひとつ。
あの日、怒鳴られたNさん。
実は、その営業所のひとつに所属していました。

会が終わったあと、
Nさんが声をかけてきました。

「今日は本当に助かったよ。ありがとう」

何度も、そう言ってくれました。

あのとき、あれだけ怒られて、
正直「もう無理や」と思い、苦手意識を持っていた相手からの言葉。

(あのときの電話、無駄じゃなかったんやな)

不思議と、めちゃくちゃ嬉しかったのを覚えています。

この頃からです。
営業に対する気持ちが、
はっきりと変わり始めたのは。

売上を追うことも大事。

でもそれ以上に、

「頼ってもらえること」
「自分だから任せてもらえること」

それが、こんなにも嬉しいんだと知りました。

そして、帰り道。
ふと、こんなことを思いました。

(あれ…)
(なんだこの感覚)

少しだけ、心が軽い。

(なんでか分からないけど、嫌じゃない。)

(違う。…楽しいかも)

気づけばぼくは、
営業の面白さに、
少しずつのめり込んでいっていました。

第8話 営業を、理解したくなった

コメント

タイトルとURLをコピーしました