第11話:——気づけば、味方が増えていた——

営業物語

営業がぼく1人になってから。
毎日は、本当に必死でした。

朝早く出社する。
連絡を返す。
見積もりを作る。
外回りへ行く。

帰ってきたら、 また問い合わせ。
気づけば毎日、 仕事のことしか考えていませんでした。

正直、 ずっと余裕なんてありません。

「この案件、間に合うか?」
「このお客さん怒ってないか?」
「売上落ちたら終わる」

そんなことばかり考えていました。

でも——

不思議と、 少しずつ変わっていったことがありました。

最初は、 「新しい担当さん?」 みたいな反応だったお客さんたちが、
少しずつ、 ぼくの名前を呼んでくれるようになったんです。

「〇〇くんいる?」
「これ、〇〇くんに聞こう」
「〇〇くんいいよね〜!」

そんな言葉が、 少しずつ増えていきました。

もちろん、 特別なことをしていたわけじゃありません。

とにかく、動いていただけでした。

困ってそうなら行く。
連絡が来たらすぐ返す。
頼まれてなくても、 気になったら確認する。

それを、 ずっと繰り返していました。

もちろん、 支えてくれたのは、 お客さんだけではありませんでした。

営業所の事務員さん2人にも、 本当に助けてもらいました。

ぼくが外へ走り回れるように、 事務処理を手伝ってくれたり、 抜け漏れを確認してくれたり。

正直、 あの2人がいなかったら、 営業所は回っていなかったと思います。

そして、 東京時代に一緒に仕事をしていた先輩や上司たちも、 ずっと気にかけてくれていました。

困ったときに電話すると、 「それならこうしたほうがいいんじゃない?」
そんなふうに、 何度も助けてもらいました。

当時のぼくは、 “自分だけでなんとかしないと” と思っていました。

でも今思うと、 全然1人じゃありませんでした。

気づいていなかっただけで、ぼくには助けてくれる沢山の仲間がいたようです。

そんな中ある日、 東京から部長が来て、 一緒にお客さんを回ることがありました。

そのとき、 お客さんが、 ふとこんなことを言ったんです。

「〇〇くんって、 もう5年くらいいなかったっけ?」

ぼくは思わず、 「いや、まだ半年くらいですよ(笑)」 と返しました。

するとお客さんは、 笑いながらこう言いました。

「なんか、 もっと前からいる感じするんだよな」

その瞬間、 なんだか、 少し報われた気がしました。

(あぁ、楽しい。)

そう思いました。

別のお客さんの支店長には、 こんなことを言われました。

「〇〇くん、 うちの営業マンの中でも評判いいですよ」

正直、 めちゃくちゃ嬉しかったです。
だって昔のぼくは、 電話が鳴るだけで嫌だった人間です。

そんな自分が、 誰かから “評判いい” と言われるなんて、 昔は想像もしていませんでした。

昔のぼくだったら、 「どうやったら売れるか」 ばかり考えていたと思います。

でもこの頃には、 少し変わっていました。

「どうやったら、 この人の役に立てるか」
「どうやったら、 困ったときに思い出してもらえるか」

そんなことを考える時間のほうが、 増えていました。

すると、 不思議なことが起きるんです。
苦しいときに、 助けてもらえる。

納期が厳しいとき。
売上が苦しいとき。
トラブルが起きたとき。

「今回は協力するよ」
「先にこっち動いとくね」
「〇〇くん大変でしょ」
「よくやってるよね〜!お茶飲んでく?」

そんなふうに、 お客さんのほうから、 助けてくれることが増えていきました。

ぼくはずっと、 「自分がGiveしている」 と思っていました。

知識を渡して。
資料を作って。
動き回って。
役に立とうとして。

でも、 違いました。
本当は、 ぼくのほうが、 たくさんGiveされていたんです。

助けてもらって。
覚えてもらって。
育ててもらって。
信頼してもらっていた。

営業って、 自分1人で戦う仕事じゃなかったんやなって、 この頃ようやく分かり始めていました。

そしてもうひとつ。
後輩や、 他部署の人たちからも、 相談されることが増えていきました。

「これどうしたらいいですか?」
「〇〇さんならどうします?」

昔、 パソコンの電源ボタンすら分からなかった自分が、 そんなふうに聞かれる側になっている。

なんだか、 不思議な感覚でした。

気づけば、 “売れること” より、
“頼ってもらえること”
のほうが、 ずっと嬉しくなっていました。

営業だけは絶対やりたくない。
そう思っていたはずなのに。
どうして・・・。

いつの間にかぼくは、 この仕事が、 とても好きになっていました。

でも——

ぼくの、 この会社での営業人生は、 この年で、 最終年を迎えることになります。

第12話:自分が、必要なくなる気がした

コメント

タイトルとURLをコピーしました