第9話:——売るより、頼られたかった——

営業物語

営業が少しずつ楽しくなってから、 ぼくの中で、 もうひとつ変わったことがありました。

それは、 “モチベーション”です。

もちろん、 売上を追うことは大前提です。

営業なので数字を作らなければ意味がありません。

でも、 気づけばぼくは、

「どれだけ売れたか」より、

「どれだけ頼ってもらえたか」

のほうが、 嬉しくなっていました。

「これ、〇〇くんに聞けば分かるよ」

「困ったら、とりあえず〇〇さんに相談しよう」

そんなふうに言ってもらえるのが、 めちゃくちゃ嬉しかったんです。

だから、 商品知識もどんどん勉強しました。

もちろん、自社製品だけではありません。

競合他社の商品も、 片っ端から調べる。

比較する。

特徴を書く。

価格帯をまとめる。

気づけば、 パソコンの中は、 自作の比較表だらけになっていました。

そして、 それを隠しませんでした。

社内の人にも、 お客さんにも、 どんどん共有していました。

「これ使ってください!」

「この資料、たぶん分かりやすいです!」

今思うと、 ちょっと変わった営業だったと思います。

営業って、 知識やノウハウを隠す人も多い。

でもぼくは逆でした。

正直、 最初から “Give精神”みたいな かっこいいことを考えていたわけじゃありません。

ただ、 頼られるのが嬉しかったんです。

それだけでした。

だから、 アウトプットを惜しむ感覚が、 あまりありませんでした。

そして、 知識だけじゃなく、 “人”を見るようにもなっていました。

このお客さんは、 今どんなことで困ってるんやろ。
会社の中で、 どんな立場なんやろ。
何を評価されたいんやろ。

スピードなのか。
利益なのか。
安定なのか。

そんなことを想像しながら、話すようになっていました。

すると、 少しずつ、味方が増えていきました。

もちろん、最初からうまくいったわけではありません。

でも、 普段から動いていると、不思議と、 苦しいときに助けてもらえるんです。

売上が厳しい月。
あと少し数字が足りない。

そんなときに、

「じゃあ今回、〇〇くんから買うよ」

「困ってるんでしょ?協力するよ」

そう言ってくれるお客さんが、 少しずつ増えていきました。

あれが、 めちゃくちゃ嬉しかった。

いや、 嬉しいというより、なんか楽しかったんです。

「あ、自分、ちゃんと関係作れてたんやな」

そう思える瞬間だったから。

この頃からです。

“まず相手に渡す”
みたいな感覚が、 少しずつ自分の中にできていったのは。

見返りを求めていたわけじゃない。
でも、 Giveを続けていると、 あとから自然と返ってくる。

営業って、 そういう仕事なんやなと、 少しずつ分かってきました。

そして、 4年目、5年目になる頃には、 後輩も増えてきました。

最初は1人。
そこから2人、3人。
他部署も含めると、 もっとたくさんの後輩ができました。

すると今度は、 後輩たちからも、 質問や相談をされるようになる。

「これ、どうしたらいいですか?」

「〇〇さんなら、どうしますか?」

そうやって頼られるのが、 また嬉しい。

気づけば、
“自分ができるようになること”より、
“周りがやりやすくなること”のほうが、 楽しくなっていました。

頼られる。
→嬉しい。
→また動く。
→また頼られる。

そんな循環が、 少しずつでき始めていました。

そしてこの頃のぼくは、 正直、 仕事がかなり楽しかったです。

営業だけは絶対やりたくない。

そう思っていた人間とは、 思えないくらいに。

でも——

環境が変わると、
積み上げてきたものは、
簡単に崩れることもあります。

(続く)

コメント

タイトルとURLをコピーしました